パリ在中フードライター 川村明子の食レポ

『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』などの著作もある在住フードライターの川村明子氏が、現地の5軒を実食レポート。おすすめの食べ方や調理法も参考に、美しい写真とともにご堪能あれ。

焼き色にそそられて

ル・グルニエ・ア・パン

アベス駅から徒歩1分

こぢんまりとしたメリーゴーラウンドのあるアベス駅前の広場から右に商店街を進むと、ほどなくして〈ル・グルニエ・ア・パン〉がある。パリ市主催のバゲットコンクールで2回も優勝という快挙を成したお店だけに、ランチタイムや夕方には行列ができる。

バゲットはお店の一番奥に

目当てのバゲットは、奥に長いお店の一番奥。レジの後ろ手に、ふつうのブーランジュリーよりもだいぶたくさん、行儀よく立ち並んでいる。嬉しいことに、こちらのバゲットは焼き色が濃いめだ。私は“よく焼き”タイプが好きなので、わりとどれもしっかりした焼き色のこのお店でも“bien cuite”(=よく焼いた)と注文する。てきぱきと動きの良い店員さんからバゲットを受け取って、香ばしい匂いに食欲を刺激されながら、メトロで家に帰った。

サンドイッチにしても美しい

ちょうど冷蔵庫に、〈メゾン・ヴェロ〉で買ったリヨン(豚バラ肉の素揚げ)が残っていたので、それを挟んでサンドイッチにすることにした。バターを少し塗り、クレソンをたっぷりとりんごも少し。肉の旨みたっぷりのパンチある具に、このバゲットはぴったりだった。

ハムは立派な肉料理

メゾン・ヴェロ

サラミだけでも種類がいっぱい

初めて〈メゾン・ヴェロ〉を訪れたのは13、4年前。保存料も着色料も入っていないハムを売っていると知り、買いに行った。「何日持ちますか?」と聞いたら、2、3日と言われた。それで1枚はその日のうちに食べ、残りは冷蔵庫へ。果たして2日後。すでに一部、色が変わり始めていた。塩分は必要以上に加えられていないので、保存がきかないのだ。それから〈メゾン・ヴェロ〉は、最も買いに行くシャルキュトリになった。ハムだけでなく、定番のパテ・ド・グランメール、冬にはブーダンもお気に入りだ。

パテはそのままシンプルに

ハムは脂身までおいしいから、夏だったらサラダを合わせてそのまま食べる。ハムがお夕食のメインにもなることは、フランスに来て初めて知った。たしかに、お肉の味がしっかりして、肉料理そのものだ。冬でも、余計なことをせずハムの味はそのまま楽しみたくて、付け合わせだけ温かいものにする。

美しきハム

かつて、お惣菜屋さんの定番メニューでよく見かけたアンディーヴとハムのグラタンが私は好きで、自分でもよく作る。ただ、〈ヴェロ〉のハムは火を入れずに食べたいから、アンディーヴだけを粗塩とオリーヴオイルをふりかけてオーブンで焼く。くたっとなったら生クリームを絡め、少し温めてハムに添える。ハムを肉料理として味わう、大満足のひと皿になる。

食べ頃を買いに

キャトルオム

7区セーヴル通り沿いにある

馴染みのない味に日本人には苦手な人が多い、という山羊乳のチーズ。私も例にもれず、最初は食べられなかった。
半年間ホームステイしていた家は、毎晩5種類のチーズを出してくれて、内ひとつは、その地方産のシェーヴル(山羊乳)チーズだった。フランス人には“シェーヴルの方が好き”という人が結構いる。そんなに言うなら、と思い毎日少しずつ試していたら、あるときから、独特の風味にすっかりはまり、結局私も“シェーヴル派”になってしまった。

おすすめが手前の台に並べられている

シャヴィニョル産の山羊乳で作るクロッタン・ド・シャヴィニョルは、厚さ4cm、直径6cmくらいの小さなチーズだ。チーズ屋さんに行くと、どれくらいがいい?と好みの質感を聞かれる。老舗〈キャトルオム〉で「柔らかすぎず、乾きすぎてもなく」とお願いすると、程よいものを選んでくれた。切り口が見るからに美味しそうだったブリも、ほんの少し切ってもらい、買って帰った。

ナッツ入りの香ばしい黒パンと

質感は良くとも、シェーヴルはキーンと尖った味がすることがある。でも〈キャトルオム〉のクロッタンは、まさに食べ頃の丸みのある味だった。ブリも同じく。見た目に裏切られることのない、絶妙な熟し具合。この加減こそが、職人の技なのだなぁと、アイスクリームが口の中で溶けて行くのを楽しむように、チーズを味わった。

目にも舌にもおいしいお店

デュ・パン・エ・デジデ

目を引く外観

お昼時はとても混むから少し時間をずらして行ったのに、それでもやはり入り口のドアまで人がいっぱいだった。いちばん手前には、パン・オ・ショコラとクロワッサン。次にリンゴのタルト、ショッソン・ア・ラ・ポム(こちらのものは、リンゴのコンポートではなくリンゴ1/2個がそのまま入っている)、その奥には渦巻き状のエスカルゴが大皿に盛られている。まるでデコレーションとして置かれているかのような出で立ちのそれらは、出番を待ってもいるようで、列に並んでいる間、目移りしてしまってしょうがない。

1870年の内装

看板商品のパン・デザミは、レジ近くでどーんと構えている。表情豊かなヴィエノワズリーに比べ、無骨なこのパンには買わずにはいられない魅力があって、だから必ず買うことになる。家に帰るまでの間じゅう、袋からヘーゼルナッツのような薫りを放ち続けるから、帰り着いたときには、すでに口の中が食べる準備万端だ。

シンプルに食べたい

この日は、クレソンをくるみオイルとブルーベリーヴィネガーで和えたもの、22カ月熟成のコンテに、ブルーベリージャムも少し添えた。チーズとジャムで、しょっぱいと甘いのを交互に、たまにサラダで口直しして、“おいしい”がエンドレスだった。

正統派のお菓子を求めて

ストレー

長らくショーウインドウに見入っていたムッシュたち

かつての中央市場、レアールから延びるモンドルグイユ通り。食品系の商店が軒を連ねる中程に、クラシックな構えが目を引く、〈ストレー〉がある。パリで最も古いパティスリーであるこの店は、1730年にニコラ・ストレーが開業。淡い色調の装飾画が美しい店内は、左手にパティスリーが、右側に塩味系のタルトなどが並ぶ。

懐かしさを感じるケーキが並ぶ

ケーキのショーケースには、ミルフィーユやエクレア、ルリジューズ、パリ・ブレスト、ババに、リンゴや洋なしのタルトなどが勢揃い。いまどきのスタイリッシュなパティスリーと比べたら、いくぶん形や大きさがぽってりとしたものがあったり、色合いも地味かもしれない。でも、懐かしさを感じるそれらのお菓子は、思い描くフランスのケーキまさにそのものの佇まいだ。

淡い色合いの装飾

果たしてお味は、まったく古ぼけてなんかいなかった。ラム酒入りのシロップがしっかり染み込んだアリババは、レーズン入りのクレーム・パティシエールが詰められ、ほどよく軽やかな生地に少し塩味がしのばせてあった。チョコのクリームがみっちり詰まったエクレアも、甘いと同時にキリッとしていて、なんだか凛々しい味なのだ。正統派のおいしさは、いつの時代でもおいしいのだなぁ、と実感した。

スペシャル対談

互いの仕事をリスペクトする同志
クリストフ・ヴァスール氏×ジル・ヴェロ氏

仕事の話が止まらない
ジル・ヴェロ氏とクリストフ・ヴァスール氏

今回のフランス展の目玉となるスペシャルタルティーヌ「ジャンボンブール」。〈デュ・パン・エ・デジデ〉のパン・デ・ザミと、〈メゾン・ヴェロ〉のジャンボン・ド・パリのコラボレート商品だ。この共演のアイデアは、日頃から親しいクリストフ氏とジル氏が、昨年東京で食事を共にしたときに、思いついたのだそう。「ただ東京で製品を販売する、ということには興味がないんだ。どんなふうに食べるのか、という楽しみ方をお見せしたくて」とジル氏は言う。「僕たちは向かいのブースだと聞いて、何か一緒にやりたいね、と話しながら閃いたんだ」とクリストフ氏は楽しそうに話してくれた。
そんなお二人にとって、食事に欠かせないものは何なのだろうか?ジルさんが真っ先に挙げたのは“質の良い食品をシェアすること”。
そこにクリストフ氏が“シェアする時間。素晴らしい食材。和やかな雰囲気。自分の好きな人たち”と加え、最後に「ともかくシェアするということだよ」と二人、声を揃えた。
それを実演したくての今回のコラボレート。パリでも食べられるお店はないタルティーヌを、お二人の思い丸ごと、ぜひこの機会に味わいたい。

フードライター
川村明子 かわむら_ あきこ

1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』(次回は6月30日[金]BSフジ放送)を制作中。
instagram : @mlleakiko