パブクロール(はしご)しよう!イセタンに英国パブ街が出現

英国ではパブのはしご酒を「パブクロール」と呼ぶのをご存じですか?イラストレーターでビール評論家の藤原ヒロユキ氏が、英国展出展パブをひと足先にクロールします!

ブリュードッグ

 2007年創業のブルワリー〈ブリュードッグ〉による、アジア初の旗艦店。六本木という土地柄もあって外国人客も多く、スタイリッシュな店内は現在の英国の流行を感じさせる。

 〈ブリュードッグ〉が世界的に注目を集めたきっかけは、華やかなホップの香りを前面に打ち出した「パンクIPA」の存在だ。グラスに顔を近づけただけでしっかりと感じる爽やかな柑橘系の香りは、ホップ由来のもの。口に含むと、柑橘系のフレーバーに加えて、甘みを帯びたトロピカルフルーツにも似た風味が広がる。苦みもあるが、爽やかなフレーバーが穏やかにしてくれる。
 グレープフルーツの皮を副原料に使った「エルビスジュース」は、明確にその香りと苦みを感じることができる。マグナム、アマリロ、シムコ―、シトラ、モザイクと5種類のホップが使われていて、複雑なホップアロマを楽しむこともできる。

 オリジナルのビールに加え、〈ブリュードッグ六本木〉ではウイスキーの品揃えも多彩だ。
 「アランモルト10年」の第一印象は、こうばしいモルトと木樽のアロマ。バニラやココアのニュアンスも感じる。口に含むと香りから感じるキャラクターに加え、爽やかなシトラスフレーバーも広がり、心地よい。

 はっきりとしたピート香が漂う「キルホーマン マキヤーベイ」は、スモーキーなウイスキーの好例ともいえるので、ぜひお試しいただきたい。バニラやフルーティなフレーバーもあるので、バランスがとれていて、尖った感じはしないのがうれしい。

EAT IN

左から:
ブリュードッグ
パンクIPA 651円(英国製/1杯)
エルビスジュース 701円(英国製/1杯)
ジェットブラックハート 701円(英国製/1杯)

左から:
アランモルト10年 701円(英国製/1杯(30ml))
キルホーマン マキヤーベイ 901円(英国製/1杯(30ml))
ロングロウ 701円(英国製/1杯(30ml))

ザ・ロイヤルスコッツマン

 神楽坂の〈ザ・ロイヤルスコッツマン〉は、厳選されたビールを卓越した技術で注ぐ店として有名。オーナーシェフはフレンチの名店で修業後にヨーロッパに渡り、本場の味を学んだ凄腕で、バグパイプ奏者でもある。お店は、入り口からすでに英国の雰囲気が漂い、店内は本場英国のパブそのものの空気を味わえる。

 ここでは、日本では珍しいハギスを味わうことができる。ハギスとは、羊のミンチや内臓や脂を玉ねぎなどの野菜とともに羊の胃袋に詰めて茹でた(蒸す場合もある)ものだ。食べるときは、胃袋を切り開き(胃袋は食べない)、マッシュポテトと盛り付けるのが一般的だ。スモーキーなウイスキーを少し垂らして食べる人も多い。
 しっかりとした肉の旨みと内臓系の深い味わいが印象的なハギス。野菜の甘みも加わっているので、荒々しさは感じない。スタウトのローストフレーバーとの相性は抜群。英国の味を知りたい方には、ぜひとも味わってほしい一皿だ。

 ということで、ハギスと合わせるビールはギネス。ギネスはアイルランド発祥のビールで、スタウトというビアカテゴリーを創りあげた存在。ロンドンで流行していたポーターにローストバーレイ(大麦を焦がしたもの)を加えることによって、漆黒の色合いとコーヒーにも似た香りとこうばしさと苦みを手に入れた。クリーミーな泡の舌触りも魅力。泡の上にシャムロックと呼ばれるクローバーの柄を描くことが多い。

EAT IN

ザ・ロイヤルスコッツマン
ハギス各日50点限り 864円(日本製/1人前)
ソーセージ&マッシュ 各日50点限り 1,296円(日本製/1人前)
ギネス 1,188円(英国製/1パイント)

小貫友寛氏来店

アッフェンバー

 猿のバーという意味を持つブリティッシュバーは、アットホームな雰囲気。としまえん駅から徒歩数分で、ロケーションもいい。シェフはマンチェスター出身で、ロンドンのパブやレストラン、ホテルでシェフやマネージャーに従事した経験の持ち主だけに、料理は本格派。ボリュームも満点で食べごたえがある。ビールの状態もよく、満足度が高い名店だ。

 ここで味わえるローストチキンプレートは、英国でサンデーローストと呼ばれるもの。もとはと言えば日曜日に食べるちょっと豪華な料理だが、今では何曜日でも食べる。ま、今でも“日曜限定”という店もあるが(笑)。内容は、ビーフやチキンやラムやポークのロースト、野菜、ポテト、ヨークシャープディングなどが一皿に盛られている。そして、グレイビーソースがかけられている。これが重要である。ジョン・マカヴォイシェフが作るローストチキンプレートは、鶏肉の表面がカリッと焼きあがり、中は見事なまでにジューシー。旨みがしっかりと閉じ込められている。添えられた野菜やヨークシャープディング、マッシュポテトにもグレイビーソースがほどよく浸み込み絶品だ。

 バス・ペールエールは、世界でもっとも有名なペールエールと言っても過言ではない。1777年、バートン・オン・トレントでウィリアム・バスによって創業。エールらしいフルーティな風味、ダージリン・ティ―を思わせるホップの香りと苦みが心地よい。まさにパブの定番である。赤い三角マークは世界第一号の商標登録としても有名だ。

EAT IN

アッフェンバー
ローストチキンプレート 1,599円(日本製/1人前)
バス・ペールエール 1,188円(英国製/1パイント)

ジョン・マカヴォイ氏来店

本場英国パブの楽しみ方

ーパブのはじまりって?

 英国人にとって、パブは欠かせない存在である。英国と言えばパブ。パブと言えば英国。と言っても過言ではない。
 英国では昔、お酒は各家庭で造られていて、お酒造りが得意な主婦が、そのお酒を売るようになり、そこが「エールハウス」と呼ばれるようになる。巡礼者の宿泊施設も兼ねた「イン」もでき、これらがパブの前身と言われている。エールハウスは集会場や交流の場としても使われるようになり「パブリックハウス」となり、そこに集うという現在の「パブ」文化が生まれたのだ。

ーパブで飲まれているビールとは?

 「英国のパブで飲まれているビール」と「日本で飲まれているビール」はほぼ“別物”である。
 ほとんどの日本人にとって、ビールとは「色は黄金色で、純白の泡が盛りあがり、炭酸がシュワシュワしていて、キンキンに冷やして、グビグビプハーと一気に飲むもの」だが、英国のパブで飲まれているビールは「色は銅色から真っ黒までの幅があり、泡はほとんどなく、炭酸は弱く、10℃ぐらいから常温で、チビチビとゆっくり飲むもの」なのだ。
 もちろんどちらもビールなのだが、英国のビールは「上面発酵ビール=エール」で、日本のビールは「下面発酵ビール=ラガー」。種類が違うのだ。それぞれの特徴をざっくりと説明すると、「上面発酵ビールは香りが豊かでフルーティなものが多い」のに対して「下面発酵ビールはシャープですっきりしたものが多い」と言える。

ーカスクコンディションエールってなに?

 さらに、パブで飲まれているビール(エール)は、カスクコンディションエールであることが多い。カスクとは「樽」のことで、コンディショニングとは「熟成や清澄などを行い、ビールの状態を調えること」。つまり、カスクコンディションエールとは、「樽内で状態を調えたエール」という意味になる。
 一般的なビールは、醸造所で完全に仕上げられて出荷されるため、その時点が味わいのピーク。しかし、カスクコンディションエールは、醸造所で樽詰めされた後パブに運ばれ、パブのセラーでコンディショニングされて、最高の状態を見きわめて開栓される。仕上がりほやほやのビールが味わえるということだ。

ー英国のパブの楽しみ方

 パブの歴史とビールについて学んだところで、実際のパブでの過ごし方について。
 まずは、どこに陣取るか?結論から言うと「どこでも自由にどうぞ」である。しかし、店によっては“常連客の場所”が暗黙のうちに決まっていたりするので、「ここ、大丈夫ですかぁ……」といったそぶりをみせて、先客の反応をうかがってみるのが無難である(笑)。
 日本のようにオーダーを取りに来てはくれないので、自らカウンターに行って注文をする必要がある。で、多くの場合順番を待つ列というものがない。カウンター内のバーマンとアイコンタクトが取れたら「君、注文していいよ」ってことである。
 グラスのサイズはワンパイントかハーフパイントの2種類。ワンパイントは568mlで、ハーフはその半分だ。日本のビアパブでよく見かけるアメリカンパイントグラスは473mlなので、かなり差がある。英国のほうが大きいのだ。いろんな銘柄を飲みたい方はハーフパイントがおすすめだが、本場英国のバーにお越しの場合、男性はワンパイントを頼んだほうがいい。男は黙ってワンパイント!ってのが英国式だ。
 ビールの飲み方も日本とは違う。日本の場合、中ジョッキならば3~4口で飲み干してしまう勢いだが、英国流は一口が少量。なめてすするようにチビチビ飲む。香りや味を楽しみながらワンパイントならば40〜50分かけて飲むのだ。「そんなに時間をかけると、ぬるくなっちゃわない?気が抜けちゃわない?」と思うだろうが、もともとぬるくて炭酸が弱いので、問題ないのである。グループの場合は他愛のないおしゃべりや簡単なテーブルゲームなんかを楽しみながら、独りの人は新聞など読みながらエールを楽しむのだ。

 さて、いよいよパブで一杯ひっかけたくなってきた皆さん。さすがに「ちょっと英国まで」はむずかしそうだが、伊勢丹の英国展で一杯、ならすぐにでも叶いそうだ。

藤原ヒロユキ(ビアジャーナリスト/イラストレーター)

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ海外の国際ビアコンテストの審査員を務める。著書に『知識ゼロからのビール入門』『BEER HAND BOOK』、近著『ビールはゆっくり飲みなさい』(日経出版社)など多数。著書は台湾や韓国でも翻訳されている。
(一社)日本ビアジャーナリスト協会 公式サイト