世の中日本ブーム、COOL JAPANに沸いている一方で、地域によっては後継者不足や地方の高齢化などによる伝統工芸の衰退や存続の危機にさらされているというのもまた事実です。そうしたなか、島根にモノづくりの継承、技のレベルと地位のさらなる向上を目指す、前向きな頼もしい若手職人さんたちがいらっしゃいました。
世界最高峰とされるフランスのインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」に3年連続出展し、今回、伊勢丹新宿店の「47都道府県のものづくり-伝統の技,新しい魅力-」にも出品している“シマネRプロダクト”。
メンバーの方々に熱いその胸の内を語っていただきました。

  • 小藤宗相氏

    小藤宗相氏 1970年生まれ。大学卒業後、都内の企業、県内の美術館勤務(学芸業務)を経て本格的に家業に入る。島根県奥出雲地方で江戸時代から10代続く鍛冶工房(鍛冶工房弘光にて作品を製作)。
    2012年、2013年、2014年パリ「メゾン・エ・オブジェ」出展。

  • 吉原敬司氏

    吉原敬司氏 高校を卒業後、富山の「株式会社タニハタ」に6年間従事し、組子の技術を修得。25歳で家業の吉原木工所に入る。主な受賞:島根県ふるさと伝統工芸品、京都行燈デザインコンペ特別賞(作品名・しずく)、全国建具大会、農林水産大臣賞(2011年)、中小企業庁長官賞(2013年)、2013年グッドデザイン賞(リビング障子)。

  • 布野 康氏

    布野 康氏 「硝子工房Zap Glass Studio」主宰
    1975年島根県出雲市生まれ。1999年に島根県奥出雲町ガラス工芸館入社ののち、2009年出雲にて築炉「Zap Glass Studio」主宰。2010年「ビアマグランカイ8」入選、2011年「日本伝統工芸展中国支部展」入選、2012年「ビアマグランカイ9」入選、2013年、2014年月パリ「メゾン・エ・オブジェ」出展。

  • 西田 勝氏

    西田 勝氏 西田和紙工房
    1986年生まれ。大学卒業後、実家の工房に戻り、重要無形文化財であり、ユネスコの無形文化遺産にも登録された石州半紙をはじめとする手漉き和紙の製造を行っている。

  • 濱田幸介氏

    濱田幸介氏 濱田工房主宰
    1985年生まれ。2005年、石川県立山中漆器産業技術センター入所。2006年、辻 英芳氏 (日本工芸会正会員)に師事2009年、濱田工房開設。主な受賞:2007年島根県総合美術展(県展)島根工芸連盟賞、島根県総合美術展(県展)金賞、2010年国民文化祭・岡山2010美術展奨励賞など、日本工芸会正会員

〈RELAY〉〈REBORN〉〈RENEWAL〉
“シマネRプロダクト”三つの柱。

-------“シマネRプロダクト”のみなさんは工芸作家という点では共通していますが、扱う物はそれぞれ違います。そもそもどのようなきっかけで繋がりができたのでしょうか。

小藤(敬称略)我々の仕事は、どうしても個々での活動が主になりがちです。そのつくり手が、それぞれの悩みや希望を共有することで共に前に進んでいこう、次世代に繋いでいこうという思いのもと、このグループを立ち上げました。所属団体、組合といった組織やフレームありきではなく、お互いがこの人なら、と年齢もキャリアも関係なく人柄と作品をリスペクトできるという基準で声を掛け合ったんです。

布野まず最初は小藤(鍛造)と吉原(組子)が発起人となり、それぞれが信頼できる作家さんを招く形でスタートしました。

西田私は同じ町内で組子職人をされている吉原さんからお誘いを受けて、今の“シマネRプロダクト”メンバーのみなさんにお会いしました。

吉原携わる素材は違っても、モノづくりに対する情熱と前向きな姿勢はみな同じなんですね。職人だけにそれぞれがとても個性的ですが、互いに信頼し合える性格と人柄が5人の大きな繋がりになっていると思います。

濱田私は木工芸をやっているのですが、良いものを作りたいという思いがつねにあって、そんなときに同じ思いを持ったみんなに出会いました。みんなに助けてもらいながらがんばっています。

-------このシマネRプロダクトの“R”に、このグループの核心が込められていると感じているのですが、ご説明いただけますか。

小藤「職人の新しい形を」というコンセプトのもと、島根の伝統工芸の思いと技術を受け継ぎ、そして次の世代へとそのバトンを渡していくために、今何をすべきか考える〈RELAY〉。 ということと、代々伝わる熟練された伝統技術を新しい価値観で生まれ変わらせ〈REBORN〉、これまでになかった革新的なモノづくりの姿を提案する。そして時代に合わせた単なる個々の変化ではなく、ものづくりの姿とニーズを一新〈RENEWAL〉させるため、お互いの理念の共有とその実行をめざす。という3つの“R”を意味しています。
ヒト・モノ・コトの新しいステージをつくりだすということは「職人たちの革命」「伝統工芸の進化」でもあります。シマネRプロダクトは、職人が全く新しいモノとカタチをつくり出す挑戦の場でもあることを発信してゆきたいと思います。

------ そうした熱い想いを秘めながら制作に励んでおられるわけですが、その活動拠点となる島根の魅力、島根への思いを語っていただけますか。

小藤豊かな自然だけではなく、独特の空気感があります。神々の国、ご縁の地、とよく言われますが、そういった目に見えない何か、を感じることのできる不思議な場所だと思います。ものづくりをしていく上で、そういった目に見えない何か、を形にしていく感覚というのはとても大切で、自分たちの作品を求めていただく方達はきっとそういう部分に共鳴していただいているのだなと思っています。だからこそこの地で根を張り、代々続く技と先代の思いを、繋げていくという気持ちでいます。

布野民芸運動が盛んな県であり、工芸への理解、関心の高い地域性を持っていると思います。茶道文化や出雲大社に代表される神道文化が根底にあり、加飾を嫌い「用の美」をよしとした県民性は今の我々の世代にも引き継がれており、誠実で外連味のないものづくりを目指す風土は、工芸に携わる者としては最高の環境・気風と思っています。
豊富な森林資源、潤沢な海産資源、清浄な河川などから得られる特産物や郷土料理、それを基にした伝統文化の素晴らしさなどは枚挙に暇がないですが、田舎特有の謙虚さで、声高にPRすることをしないし、アピール力が弱いんですね。それは見方を変えれば謙虚で慎ましやかな県民性の表れとも取れます。質実剛健で気取らず、実直な県民性は、食品や工芸、観光、文化の下敷きとなっています。私は島根の一番の魅力はその県民性、もしくは人柄と言っても良いでしょうが、「人」にあると思っています。そんな島根に生まれたことを誇りに思っています。

吉原私は島根西部の石見地方を拠点に組子を作っています。仕事場である吉原木工所のある室谷集落は、「棚田の郷」として知られ、日本でも有数とされる景色が一番の自慢です。何もない田舎ですが、都会にはない環境だからこそ生まれる作品があると信じています。

西田和紙作りの視点でいえば島根のきれいな水や気候、豊かな山々などはとても適しており、良い和紙を作るには魅力的な土地だと思います。生活を営む場としても、交通面など不便な面もありますが、その分自然も豊かで温かみのある人も多い素敵な場所だと思いますね。

濱田自然環境に恵まれたとても素敵な場所だと思います。静かで制作に没頭するのにはとても良い環境です。

---------「クールジャパン」などと言われるように世界は今、日本ブームに沸いていますが、みなさんのモノづくりのなかにおいても、何かエピソード・実感のようなものがございますか。

小藤2012年から3年続けてフランス パリで開催されたメゾン・エ・オブジェに参加し、自分の小さい価値観を根底から覆されたとともに、ものづくりは風土と文化が根底にあるとともに、逆にだからこそ自由な発想も必要だと感じました。
発表する場所がどこであれ、虫の眼と鳥の眼両方を持つこと、そして常に日本のものづくり、島根の風土という意識を根底においておくことが大切だと感じています。

西田問い合わせや取材なども、近年とくに増えてきているように感じますね。

布野シマネRプロダクトとしてフランスのメゾン・エ・オブジェへ出展した際に、我々つくり手がその素材や製法を説明すると、一様にその細やかさや積重された技法に驚かれました。我々の「当たり前」は世界から見ると「そこまでするのか!」だったようです。今のブームはデザインや雰囲気など、「モノ」に対する評価もさることながら、技術や姿勢に対する評価や驚きがベースとなっていると感じました。日本人の気質や真面目さ、つまり「人」が評価された結果が今日のブームとなっていると感じています。

濱田私の作品では、木の木目が見えている作品はとても評価が良いのです。でも漆を塗ると木目が見えずプラスチックみたいと言われたことがあってショックでした。もっと漆の持っている良さを伝えたいですね。

吉原近年、メディアでいろいろな分野で日本の職人さんが紹介され、とても嬉しく思います。僕は組子職人ですが、組子は元来、和風建築における建具の技法です。暮らしの洋風化によって全国的に職人が激減した時期がありますが、最近は和洋問わずさまざまなシーンに取り入れられるようになりました。組子の装飾性の高さが再認識され始めていると実感しています。

伝統工芸は、時代に合わせて変化し、
攻め続けることこそが次の伝統へとつながると思う。

--------工芸作家として古くからの伝統技術を守り、継承していく使命というその一方で、新たな時代に向けた新しい取り組み、ビジョンなどがございましたらお聞かせください。

小藤個々がそれぞれの作品作りを探求していくことはもちろんですが、こうして異業種のチームで何かを起こし、継続して活動することが、同じ思いを持つ作り手に刺激を与えて全体が活性化していく一助になればいいなと思っています。なにより刺激を求め、そして与え合える関係でいたいと感じています。

布野伝統工芸とは、変わらず、守り伝えるものだけではなく、時代に合わせて変化し、攻め続けることこそが次の伝統へとつながる、という想いはメンバー全員の共通認識として持っています。5異素材が集まるグループの強みを生かし、空間表現での提案で店舗装飾などの建築分野への参入など、点から面への活動で、今まで伝統工芸と呼ばれるものが採用されづらかったジャンルへ訴求することで、工芸の幅を広げていきたいと思っています。

西田自分の製作している和紙の基本的な製法は古くから変わらないものですが、製作して出来あがったら終わりではなく、時代に合わせた新しい使い道を模索し、提案していかなければとつねづね思っています。

濱田確かに工芸をやる人はだんだん少なくなっています。工芸の楽しさや魅力をつたえたいです。

吉原技法やデザインの革新は提案力にもつながるので、これからもどんどん新作を世に出していきたいです。また、これからの職人は作品の見せ方と発信力も大切だと思っています。手間暇かけてつくった作品が最高のカタチでお客様に見ていただけるよう、これからも工夫していきたいですね。

------吉原さんのおっしゃるように最高のカタチでお客様にお見せできるよう、今回のプロモーションのように、これからも私たち伊勢丹も協力していきます。外への発信ということでいえば、インテリア業界の「パリコレ」と称される「メゾン・エ・オブジェ」に出店するなど、国内外でアクティブに活動されていますが、これからの予定がありましたらお教えください。

小藤これから2020年の東京オリンピックに向け、より一層海外の方たちと関わる機会が増えると思います。作品だけではなく、そこから見える背景を感じていただけるような活動をしていきたいと感じています。

吉原海外の展示会に出展したおかげで、いろいろとインスパイアーされるものがあって、技術的にもそうですが感性が大きく変わったような気がします。そうして積み上げてきた作品に対し、この度ある所からご依頼があり、ヨーロッパでの大きなプロジェクトを掴むことができました。今からとても楽しみです。

---------普段の生活の中で、何か製作のヒントになったりすること、インスパイアーされるものとかありますか。

小藤茶道、花道、香道などの日本の伝統文化や、能、歌舞伎といった伝統芸能に強く惹かれるものがあります。

西田私自身は生活の中と言うより、どちらかというと仕事をしている時などで、ここを変えたらどうだろうと思いつくことはたまにあります。

布野硝子という素材の特徴的な点として透明性が挙げられるのですが、その素材感をもとに、主に水をモチーフとして制作をしています。そのため、河や湖、雨などの自然の水の表情に刺激を受けています。

吉原これは工芸に限らずですが「異業種」との交流の中でヒントになる事が多いですね。物事の捉え方や視点、観点など多方面から教えられることがあります。シマネRプロダクトの5人はそういった意味でも日ごろから互いに刺激し合っていますよ。

----------影響を受けた作家やアーティストはいらっしゃいますか。

小藤白洲正子、河井寛次郎

西田シマネRプロダクトのメンバーの先輩方にはたくさん刺激をもらっています。

布野僕は高橋禎彦さん(ガラス作家)・奈良美智さん(現代アート作家)・井上雄彦さん(漫画家)などかな。

吉原う〜ん、今のところいません。歴史上の人物でいうと、坂本龍馬の考え方にとても憧れますね。

濱田私は重要無形文化財保持者(人間国宝)川北良造氏です。

----------最近ちょっと気になっているモノ(作品)がありましたらお願いいたします。

小藤アフリカンデザインが気になっています。

布野村上隆さんの「五百羅漢図」。古典への敬意と深い考察、新たな解釈、そして誤解を恐れず提案し続ける姿勢は伝統工芸と呼ばれるものに携わる者にとって、学ぶべきことが多いと思っています。

吉原ガラス作家・布野さんのタンブラーです。

布野え、ほんとに?

---------いま工芸作家・職人をめざしている方たちに何かアドバイスをお願いいたします。

小藤基礎をしっかり学ぶことに尽きます。

西田自分もまだまだ修行中なので。

濱田大変なこと、苦労が多いですが、いっしょに頑張りましょう。

布野私自身まだまだ若輩者で、アドバイスなどおこがましいこと極まりないですが、一つだけ言えることは、自分の手で何かを産み出すことは、尊く、素晴らしい喜びにあふれています。

吉原辛くてもあきらめないで続けて欲しいです。粘って粘って、粘り続けたその先に見える景色がきっとあるはずです。

--------最後に今回の企画でみなさんの作品を多くのお客さまが見にいらっしゃると思いますが、そのお客さまに「ここを見て欲しい」など、何かお伝えしたいことがございましたらお願いいたします。

小藤ご自身がインテリアコーディネータだとしたらその作品をどう使うか、という視点で見ていただければ隠れている僕らの思いが感じていただける気がします。

西田メンバーそれぞれ製作しているものは違いますが、作品に対する熱い思いは同じだと思っております。ぜひご覧になってそのあたりを感じていただけたら、と思います。

布野我々工芸家がつくるものは、美術品でもアート作品でもありません。実際にお使い頂き、生活空間に置かれ、彩ることによってのみ完成される工芸品です。つまり作品の完成にはプロの使い手であるお客さまの手が欠かせません。使われて、育って、完成していく、そんな作品に出会いに会場へ足をお運び頂ければ幸いです。

濱田木目の良さが活きるシンプルで、使いやすい物を作るように努力しています。木目の美しさ、それと造形をぜひ見ていただきたいと思います。

吉原それと島根にはまだまだ、隠れたいいものがたくさんあります。美しい景色に、美味しい郷土料理。ぜひ島根にも遊びに来てください。

-------みなさんのこれからのご活躍を心から願っております。きょうはお忙しい中、どうもありがとうございました。